精神疾患(うつ病・統合失調症)の配偶者との離婚の進め方
[更新日]2026/04/27 52 -
配偶者がうつ病・双極性障害・統合失調症・パーソナリティ障害などの精神疾患を抱えていると、「治療中の相手と離れていいのか」「見捨てるようで罪悪感がある」「相手が判断能力を失っていたら離婚できないのでは」と、当事者は重い葛藤を抱えがちです。一方で、共依存的な関係に追い詰められ、自分自身が心身を壊してしまう人も少なくありません。本記事では、精神疾患を理由とする離婚の法的論点、民法770条の「強度の精神病」要件の実情、別居前後にやっておくべき準備、相手の判断能力に問題がある場合の手続き、自分の心を守る方法までを整理します。
「精神疾患=離婚事由」とは限らない
配偶者が精神疾患であること自体は、即座に離婚事由となるわけではありません。民法770条1項4号には「強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」という規定がありますが、これは厳格に解釈され、認められるハードルは現在ではかなり高くなっています。実務では、5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」を主軸に主張することが多くなっています。
770条1項4号が認められにくい理由
最高裁判例の流れとして、4号該当が認められても、配偶者の今後の療養・生活への配慮が示されない限り離婚請求は棄却されることがあります(いわゆる具体的方途論)。療養費の支払い、施設入所先の確保、家族の支援体制など、相手が放り出されない算段を立てて初めて認められる、という運用が続いてきました。
5号「その他重大な事由」での主張
病気そのものではなく、長年の別居、暴言・モラハラ、家事育児の放棄、治療拒否による家庭崩壊、共同生活が事実上困難であること、などを5号の要素として組み立てる方が立証しやすいケースが目立ちます。「病気を理由に切り捨てる」のではなく「夫婦としての実体が失われた事実」を中心に据えるのが定石です。
疾患タイプ別の留意点
疾患の種類によって、離婚協議で問題になりやすいポイントは違います。以下は一般的な傾向で、最終的な見立ては主治医・弁護士と相談する必要があります。
| 疾患の例 | 離婚協議での留意点 |
|---|---|
| うつ病・双極性障害 | 病状の波が大きい。話し合いの時期選びが重要 |
| 統合失調症 | 服薬中断時のトラブル多。判断能力の確認が必要 |
| パーソナリティ障害 | モラハラ的言動を伴うケースで証拠保全が重要 |
| アルコール・薬物依存 | 暴力・浪費の事実を時系列で残す |
| 認知症 | 成年後見制度の利用検討が必要になる場合がある |
「治療を拒否している」かどうか
本人が治療に取り組んでいるかどうかは、裁判所の心証に大きく影響します。通院・服薬を続けているのに改善しない場合と、本人が治療を拒否し家庭に被害を出し続けている場合では評価が違います。後者は5号該当の有力材料となるため、通院記録・処方履歴の確認が役立ちます。
別居前後にやっておくべき準備
精神疾患の配偶者との離婚は、感情面・安全面・経済面の三方向で準備が必要です。一気に動こうとすると相手の症状を悪化させ、結果として自分も追い詰められます。
医療・福祉ルートの確保
- 主治医・精神保健福祉センターへの事前相談
- 相手側の親族と「治療継続の体制」を共有
- 自立支援医療・障害年金など利用可能な制度の確認
- 必要に応じて成年後見制度・任意後見の検討
自分側の安全確保
- 暴言・暴力がある場合の録音・日記
- 診断書・通院記録(自分が体調を崩している場合)
- 別居先の確保と住民票閲覧制限の検討
- 子どもの送迎・見守り体制の整備
ポイント: 別居を切り出すタイミングは、相手の病状が安定している時期を選ぶのが鉄則です。急性期の通告は自傷他害のリスクを高めます。主治医・支援者と事前に段取りを擦り合わせましょう。
相手の判断能力に問題がある場合の手続き
配偶者が判断能力を欠く状態にある場合、本人と直接協議離婚を成立させることができません。裁判所での手続きを使うことになりますが、相手側に手続きを進める代理人が必要です。
成年後見人の選任
配偶者の判断能力が継続的に欠如している場合、家庭裁判所に成年後見人選任の申立てを行い、後見人を相手方として離婚調停・訴訟を進めます。配偶者本人が当事者ですが、手続上は後見人を介してやり取りします。
財産分与・婚姻費用の扱い
病気のために働けない配偶者がいる場合、財産分与や扶養的要素が重要になります。判例上、療養生活を送る配偶者への配慮として、財産分与を多めに設定したり、生活費を一定期間補助するケースもあります。「捨てる」のではなく「最低限の生活を確保したうえで法律関係を整理する」発想が現実的です。
自分自身の心を守るために
精神疾患の配偶者を支えてきた当事者は、共依存的な関係性に陥り、自分のSOSに鈍感になっていることが多いものです。離婚を進めるかどうかの前に、まず自分の状態を客観視する時間が必要です。
- 家族会・自助グループ(家族の会、AA・Al-Anonなど)への参加
- 自分自身の通院・カウンセリング
- 「24時間相手の世話をしない時間」を意識的に確保する
- 離婚しない選択肢(卒婚・別居婚)も含めて検討する
「離婚しない」を選ぶ場合の選択肢
必ずしも全員が離婚を選ぶ必要はありません。経済的事情、子の年齢、相手の病状、自分の体力との兼ね合いから、関係を維持しながら自分を守るという中間解も実務上はよく取られます。
中間解の例
- 家庭内別居(生活空間と家計を分ける)
- 本格別居+婚姻費用分担で別世帯化(戸籍はそのまま)
- 卒婚(社会的関係は維持しつつ実生活は切り離す)
- 主治医を交えた家族療法・夫婦カウンセリング
「離婚という結論を急いで出さない」選択は、判断力が低下している時期にも有効です。距離を置いてから半年〜1年後に改めて方針を決めるケースも珍しくありません。
経済面で押さえるポイント
配偶者が精神疾患で就労困難な場合、障害年金・自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳の取得は、家計を守る上で重要です。離婚を選ぶ場合でも選ばない場合でも、これらの制度は本人の生活基盤を支え、結果的に当事者であるあなたへの依存度を下げます。専門家に依頼しなくても、市区町村の障害福祉課で詳細を案内してもらえます。
よくある質問(FAQ)
Q. 配偶者が精神疾患であることを理由に協議離婚できますか
A. 相手に判断能力があり、双方が合意するなら協議離婚は可能です。判断能力が著しく低下している場合は協議離婚はできず、家庭裁判所での調停・訴訟、場合によっては成年後見人の選任を経る必要があります。主治医に意思能力の状況を確認した上で進めるのが安全です。
Q. 病気の配偶者を置いて出ると「悪意の遺棄」になりませんか
A. 婚姻費用を支払い続け、安全網(医療・福祉・親族の支援)を整えた上で別居する場合、悪意の遺棄と評価される可能性は低くなります。逆に、生活費を一切渡さず連絡を絶って失踪する形は不利に働きます。別居の合理的理由(暴力・モラハラ・自分の体調悪化等)を記録しておきましょう。
Q. 慰謝料を請求されることはありますか
A. 「病気を理由に切り捨てた」という主張は、相手側からなされる典型パターンです。ただし、共同生活が困難な実態や暴言・モラハラなど5号該当の事情があれば、こちらが慰謝料を支払う必要はないケースが多いです。逆にこちらが請求できる場合もあるため、弁護士相談で見立てを確認しましょう。
Q. 子どもがいる場合、親権はどうなりますか
A. 親権は「子の福祉」を最優先に判断されます。一方が精神疾患を抱えていても、養育能力があれば親権者になり得ます。逆に、症状が重く子の安全に支障がある場合は健常な親が親権者となる傾向があります。家庭裁判所調査官の調査結果が重視されますので、日々の養育実績を記録しておきましょう。
執筆
離婚ポータル事務局
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