不妊治療中・不妊が原因の離婚問題と慰謝料・財産分与の扱い
[更新日]2026/04/27 44 -
不妊治療は、身体的・精神的・経済的に大きな負担がかかる長期戦です。治療の途中で夫婦の足並みが揃わなくなり、関係が悪化してしまうケースや、子どもができないことを理由に一方から離婚を求められるケースは決して珍しくありません。本記事では、不妊治療中・不妊が原因で離婚に至るケースで押さえておきたい論点を、慰謝料の請求可否、財産分与における治療費の扱い、凍結胚や精子・卵子の取り扱い、離婚後の治療継続といった観点から法的に整理します。感情と法律の整理が同時に必要な領域なので、冷静な判断材料として参考にしてください。
不妊が「離婚原因」になるかどうか
「子どもができないこと」自体を理由に、相手の同意なく裁判で離婚できるかは、実務上慎重に判断される論点です。協議離婚であれば双方の合意があれば理由は問われませんが、相手が拒否している場合は法定離婚事由の有無が問題になります。
民法770条の法定離婚事由との関係
民法770条が定める法定離婚事由は、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、強度の精神病、その他婚姻を継続し難い重大な事由の5つです。「子どもができないこと」自体は法定離婚事由として明示されていません。一方で、長期にわたる不妊や治療への姿勢の違いから関係が完全に破綻したと評価される場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たると判断される余地はあります。
「不妊だから」という理由だけの離婚請求は通りにくい
裁判実務では、医学的に妊娠の可能性が低いという事実だけで離婚を認めるのは、相手の人格的価値を否定することにつながるため極めて慎重です。離婚が認められるかは、不妊そのものより、夫婦間のコミュニケーション破綻、別居期間、その他の事情の積み重ねで判断されることが一般的です。
慰謝料が認められるケース
不妊治療をめぐる慰謝料は、「治療への協力義務」と「言動の悪質性」に焦点が当たります。配偶者の言動によって精神的苦痛を受けたかどうかが判断基準です。
治療への協力拒否や中傷
配偶者が「子どもを産めないなら離婚」と繰り返し言ったり、不妊を理由に侮辱や暴言を行ったりした場合、慰謝料請求が認められる余地があります。また、夫婦で治療を続ける合意がありながら、一方的に通院を放棄したり、必要な検査・治療を拒んだりして関係破綻に至った場合も、慰謝料の対象となるケースがあります。
不貞行為が並存しているケース
不妊治療中に配偶者の不貞行為が発覚した場合は、不妊と直接結びつかなくても、不貞そのものに対する慰謝料請求が可能です。「治療で精神的に追い詰められている時期に裏切られた」という事情は、慰謝料額の増額事由として考慮されることがあります。
| ケース | 慰謝料の見通し |
|---|---|
| 不妊を理由とした暴言・侮辱が継続 | 認められる可能性あり |
| 治療への一方的な協力拒否 | 事情により認められ得る |
| 不貞行為が並存 | 不貞慰謝料として請求可 |
| 単に妊娠できないという事実のみ | 慰謝料の対象とならない |
ポイント: 不妊それ自体は慰謝料の根拠になりません。慰謝料を求める場合は「相手の言動」や「協力義務違反」「不貞」など、他者の責任行為を立証する必要があります。LINEや日記など、言動の記録を残しておくことが重要です。
財産分与・凍結胚の扱い
不妊治療には数十万円から数百万円の費用がかかることもあり、離婚時に「治療費は誰が負担すべきか」「凍結保存している胚や精子・卵子はどうなるか」が論点になります。
治療費は夫婦の共同支出として扱う
婚姻中に支払った不妊治療費は、原則として夫婦が共同生活のために支出した費用と評価されます。離婚時の財産分与は、対象財産(プラスの資産)を清算する手続きで、過去の治療費を「片方が出した分を返してもらう」という形にはならないのが基本です。ただし、特有財産から多額の治療費を出したなどの事情がある場合は、寄与度を考慮して財産分与の割合に反映できる可能性があります。
凍結胚・凍結精子・凍結卵子の扱い
凍結胚は「夫婦双方の同意」を前提に保存されているため、離婚により一方の同意が撤回された場合、原則として使用や移植はできなくなります。日本産科婦人科学会のガイドラインでも、移植には夫婦の同意が必要とされており、離婚後の単独使用は認められないのが一般的です。凍結精子・凍結卵子も同様で、保管継続や廃棄について双方の合意が必要になります。
離婚後の治療継続を望む場合の現実
「離婚後も自分一人で治療を継続したい」と考える方もいますが、日本では生殖補助医療の単身者への適用は限定的で、医療機関ごとの方針も分かれます。法律上は2020年に成立した「生殖補助医療法」が施行されていますが、単身者が婚姻中の凍結胚を使うことは想定されていません。離婚を選択肢に入れる前に、主治医に治療上の選択肢を相談しておくことが重要です。
- 夫婦で治療方針を決める段階の合意内容を書面で残す
- 凍結胚等の保管延長・廃棄の同意書面を確認しておく
- 治療と仕事の両立で休職した時期の収入減を財産分与で考慮できるか確認
- 精神的負担が大きいときは、心療内科や不妊カウンセラーの利用を検討
よくある質問(FAQ)
Q. 不妊を理由に夫から離婚を切り出されました。応じなければなりませんか?
A. 協議離婚は双方の合意がなければ成立しません。応じたくない場合は離婚届に署名しないでください。相手が調停・裁判で離婚を求めても、不妊そのものは法定離婚事由に当たらないため、ほかの破綻事情がなければ離婚は認められにくい傾向です。一人で抱え込まず、弁護士や法テラスに相談しましょう。
Q. 治療費を多く負担した側が、離婚時に返金を求められますか?
A. 婚姻中の治療費は原則として共同支出と扱われ、過去の負担分を取り戻す形での請求は基本的に認められません。ただし、特有財産(結婚前の貯蓄・親からの援助など)から多額を出したケースでは、財産分与の割合調整で考慮される余地があります。出費の出所が分かる記録を残しておきましょう。
Q. 離婚後に凍結胚を使って妊娠することはできますか?
A. 日本のガイドライン上、凍結胚の使用には夫婦双方の同意が必要とされており、離婚により同意が失われた状態での移植は実施されないのが一般的です。離婚後の単独使用は認められないと考えるのが原則で、保管継続や廃棄も双方の合意が前提となります。
Q. 治療中の精神的苦痛で慰謝料を請求できますか?
A. 単に治療が辛かったという事実だけでは慰謝料の対象になりません。配偶者の暴言、協力拒否、不貞行為など、相手の責任行為が立証できる場合に限り、精神的苦痛に対する慰謝料が認められる可能性があります。LINEのやり取り、通院記録、日記などを保存しておきましょう。
Q. 不妊治療と仕事の両立で休職中です。離婚時に収入面で不利になりますか?
A. 治療のための休職や時短勤務で一時的に収入が下がっていても、財産分与の割合は原則として2分の1ルールが適用されます。婚姻費用や養育費の算定では、現在の実収入だけでなく潜在的稼働能力も考慮される場合があります。治療と仕事の両立の経緯を記録しておくと、交渉材料になります。
Q. 義両親から「子どもができないなら別れて」と言われ続けています。これも慰謝料の対象になりますか?
A. 義両親の言動自体に対する慰謝料請求は法的にはハードルが高いものの、配偶者がそれを止めずに同調していた、または共に追い詰めていた場合は、配偶者に対する慰謝料の事情として考慮される余地があります。録音や日記などで記録を残し、弁護士に相談して個別事情を整理しましょう。
執筆
離婚ポータル事務局
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