奨学金の返済責任は離婚でどう変わるか
[掲載日]2026/05/05 1 -
奨学金の返済中に離婚する場合、返済義務が誰に残るかは契約者・連帯保証人・連帯債務者の立場で大きく変わります。財産分与の対象になるか、配偶者が代わりに返すべきか、返済困難時の救済制度まで、日本学生支援機構の運用を踏まえて整理します。
返済義務は本人名義が原則
奨学金は、学生本人が借主(契約者)となる契約が原則です。したがって、返済義務を負うのも契約した本人であり、結婚・離婚といった婚姻関係の変化は返済義務そのものを動かしません。日本学生支援機構(JASSO)の奨学金でも、民間の教育ローンと異なり、借主が大学等に在籍していた学生本人という建付けが維持されます。
例えば妻が大学時代に借りた奨学金の残債が三百万円あり、結婚後に夫の収入で返済していた場合でも、返済義務の主体は妻のままです。離婚時に「夫が返済を続ける」との取り決めをしても、JASSOから見れば返済責任者は妻で、滞納時の督促は妻に向かいます。内部的な合意と法的な責任は別物である点を最初に押さえておきましょう。
この原則は、財産分与の議論にも直結します。奨学金返済を「夫婦の共同債務」と捉えて折半を主張するケースもありますが、法的には本人固有の債務として扱われるのが一般的です。ただし、後述のように返済を婚姻期間中に行った分については、財産分与の調整要素になる余地があります。
連帯保証人・連帯債務者の責任
JASSOの奨学金では、申込み時に「人的保証」か「機関保証」のいずれかを選びます。人的保証を選んだ場合、連帯保証人(父母等)と保証人(親族等)を立てる必要があり、本人が滞納するとまず連帯保証人に請求が及びます。結婚後に配偶者が連帯保証人になるケースは少ないですが、貸与終了後の保証人変更で配偶者を入れているケースや、民間奨学金・教育ローンでは配偶者が連帯債務者になっているケースもあります。
連帯保証人と連帯債務者の違いは以下のとおりです。
| 項目 | 連帯保証人 | 連帯債務者 |
|---|---|---|
| 性格 | 主債務者の補助 | 対等な債務者 |
| 請求順序 | 本人と同時に請求可 | 本人と同時に請求可 |
| 求償権 | 本人に全額求償可 | 負担割合を超えた部分で求償 |
| 離婚後の解除 | 原則解除困難 | 原則解除困難 |
離婚しても、連帯保証人・連帯債務者から自動的に外れることはありません。金融機関が認めた場合に限り交代・解除が可能ですが、新しい保証人の審査や一括返済が求められることもあります。離婚協議書に「元配偶者を連帯保証人から外す手続きを行う」と書いても、貸主が同意しなければ実現しない点に注意が必要です。
奨学金は財産分与の対象外
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を分ける手続きです。家庭裁判所の運用では、学生時代に借りた奨学金は「個人が自己の教育のために負った債務」であり、婚姻後の協力によって形成されたものではないため、原則として財産分与の対象にはなりません。
たとえば妻が独身時代に借りた奨学金五百万円を結婚後に返済していた場合でも、残債を夫に分担させる法的根拠はありません。逆に、借入者本人の自己資金での返済として整理されます。一方で、婚姻期間中に夫婦の共有口座から返済した金額については、他の財産との均衡で清算される余地があるというのが一般的な考え方です。
特殊なケースとして、婚姻後に資格取得や大学院進学のために新たに借りた奨学金については、家族の生活設計に関わる借入と評価されることがあります。この場合は、借入目的・家計への寄与・学業の成果などを考慮して、配偶者が分担を求められるケースもゼロではありません。ただし、これも個別の事情次第であり、明確な基準はないため、実際の取り扱いは弁護士等との相談が必要です。
離婚協議の場では、奨学金の返済負担を「夫婦の事情」として考慮し、他の財産分与や慰謝料の金額調整に反映させる形で落とし所を探るのが現実的です。単純な「半分負担」という主張は通らない点を理解しておきましょう。
返済困難時の減額・猶予制度
離婚により収入が大幅に減ったり、一人で子どもを育てることになったりした場合、毎月の返済が負担になることがあります。JASSOでは返済困難な借主向けにいくつかの救済制度を用意しています。
- 減額返還制度:毎月の返済額を2/3、1/2、1/3に減額し、返済期間を延長する
- 返還期限猶予制度:年収条件を満たす場合、最長十年まで返済を先送りできる
- 災害・傷病等による返還免除:一定条件で残額の全部または一部が免除
- 所得連動返還方式(一種新方式対象者):所得に応じて月額が自動調整
減額返還は、失業や傷病、出産・育児、ひとり親としての生活など経済的な事情が理由となる幅広いケースで利用できます。申請には所得証明、給与明細、離婚後の世帯状況が分かる書類などが必要で、JASSOのウェブサイトから申請書類をダウンロードして郵送する形式が一般的です。
返還期限猶予は、一定の所得以下(目安として給与所得者で年収三百万円以下、事業所得者で年間所得二百万円以下)であれば承認されやすく、育児・介護や失職などの事由でも柔軟に認められます。ただし利息は止まらず元金も減らないため、猶予期間は生活再建のための「時間を買う制度」と理解しましょう。
制度を利用するなら、延滞が発生する前の申請が鉄則です。延滞状態では信用情報機関(個人信用情報)に登録され、その後のクレジットカード作成や住宅ローン審査に影響が出ます。返済が厳しくなりそうだと感じた時点で、JASSOの奨学金相談センターに連絡することをおすすめします。
日本学生支援機構への具体的な手続き
離婚に伴い返済条件を変更する場合、JASSOへの届出や申請が必要です。特に氏名変更、住所変更、引落口座変更は優先度が高く、これを怠ると通知が届かず延滞扱いになりかねません。
手続きの流れは次のとおりです。
- 氏名変更:戸籍抄本または改氏届の写しを添付し、JASSO所定の改氏届を提出
- 住所変更:スカラネット・パーソナル(オンライン)または郵送で届出
- 引落口座変更:金融機関と口座振替依頼書を取り交わし、JASSOへ提出
- 連帯保証人・保証人の変更:新しい保証人の収入証明等を揃え、JASSOの審査
- 機関保証への切替:人的保証から機関保証に変更する場合、保証料の支払と審査
スカラネット・パーソナルに登録しておくと、返済状況・残高・返済予定をオンラインで確認できます。離婚後は生活状況が変わりやすいため、毎月の返済額と残高を把握し、家計に合わせて減額申請を検討できるようにしておくと安心です。
また、元配偶者が連帯保証人や連帯債務者の立場にある場合は、離婚協議の中で「返済を滞らせないこと」「万一滞納したら速やかに返済し、元配偶者に迷惑をかけないこと」を約束する条項を離婚協議書に盛り込んでおきましょう。これは離婚後の金銭トラブルを防ぐだけでなく、元配偶者に求償権を行使される事態を未然に防ぐ意味でも重要です。
離婚後の生活再建と奨学金返済の両立
離婚後は収入減少・転居・子育てと、奨学金以外にも支出が増えがちです。返済を続けながら生活を立て直すには、家計の優先順位を整理し、使える制度を最大限活用することが鍵となります。
具体的な家計見直しのポイントは以下のとおりです。
- 児童扶養手当・住宅手当・医療費助成など公的支援をフル活用
- 固定費(通信・保険・サブスク)を見直し、可処分所得を増やす
- 奨学金返済は減額返還を検討し、毎月の負担を軽くする
- クレジットカードリボ払い・消費者金融は優先して整理
- 緊急時資金(最低三ヶ月分の生活費)を先に確保
奨学金返済は最大二十年近く続く長期の債務ですが、減額や猶予を上手に使えば生活を破綻させずに返し続けることは可能です。延滞するとブラックリスト入りのリスクがあるため、苦しいときは早めに制度利用を選ぶ方が、長期的には有利になります。
離婚を機に自分名義の債務を正しく把握し、生活再建と並行して計画的に返済していきましょう。必要に応じて自治体の無料法律相談や、JASSOの奨学金相談センター、弁護士・司法書士といった専門家への相談も積極的に活用することをおすすめします。
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